LINEの海外展開に学ぶ「ローカライズ」の戦略
一般にローカライズ(現地化)は、「特定の国を対象に作られた製品を他国でも使用できるよう、現地のマーケットに対応させる手法」を指し、とくに世界中で流通しているコンピュータソフトなどではこれが常識になっています。しかし、これまでのローカライズの対象といえば言語や通貨などが中心で、機能面やデザイン面、あるいはそれにともなうプロモーション面に関するそれは大きく後れを取っているという実情がありました。
そうした状況を打破したのが、LINE株式会社(韓国ネイバーの100%子会社)が開発・運用している日本発のスマートフォンアプリ「LINE」です。このLINEは、機能を各国の事情やお国柄に合わせてカスタマイズするという戦略によって海外でも成功を収めました。日本企業の海外展開を支援するサイト「TENKAI」がお届けするこのコラム、今回はLINEのローカライズ戦略から海外進出成功の要因を学びます。
日本ではスマホの標準アプリに成長
LINEといえば、今や子どもからお年寄りまで幅広い世代の日本人に親しまれているアプリ。すでにスマートフォンではメールよりもLINEのトーク機能(チャット)のほうが多く利用されており、搭載されている無料通話サービスが従来の電話機能にとって代わりつつあるなど、その勢いは止まることを知りません。
さらにトーク機能では仲間内だけのグループチャットも可能。文字のほかに、オリジナルスタンプや有名キャラクターのスタンプ、画像や位置情報、動画、音声メッセージも送信でき、利用者を飽きさせない工夫が詰まっています。
同じアプリ?と思えるような大胆な現地化
すでに国内において同カテゴリーのSNS系アプリではダントツのユーザー数を誇るLINEは、海外でもその利用者数を飛躍的に伸ばし始めています。LINE株式会社によれば、2014年10月9日現在で、登録ユーザーは世界で約5億6000万人を突破。アプリを日常的によく使う月間アクティブユーザーも1億7000万人に達しています。
この躍進の理由が、機能面・デザイン面のローカライズにありました。前述のように単に言語を現地に合わせるという従来の手法の枠を超えて、アプリの性格までガラっと変えてしまうような大胆なアプローチでファンを増やし続けています。以下では、その一例としてインドネシアにおけるローカライズをご紹介しましょう。
同級生を探す機能で、インドネシアのファンを獲得
トーク、無料通話、スタンプといった基本的な機能は日本と共通ながら、東南アジア向けのLINEには日本国内向けのアプリにはないもうひとつの目玉があります。それが、自分の学校名や卒業年度を入力するだけで同級生を探してくれる機能です。すでにタイや台湾ではSNS系アプリのトップシェアを誇っていたLINEですが、この新機能によってインドネシアでも大ブレークを果たし、“ASEAN制覇”の原動力となりつつあります。
広告キャンペーンで感情移入×動機づけ
現地インドネシアでこの機能が支持された背景には、とある広告キャンペーンの存在がありました。それは、高校生同士の恋愛を描いた十数年前の国民的大ヒット映画の“その後”を短編動画として製作し、YouTube上に公開するというもの。ここでポイントとなったのが、映画本編の最後にアメリカとインドネシアで離ればなれになってしまった主人公の男女が、このLINEの同級生探し機能を使って再会を果たすというストーリーです。
公開当時は「インドネシアの若者で観ていない者はない」と言われたほど人気を博した恋愛映画だけに、その後日談とも呼べる物語に感情移入した視聴者から短編動画は絶大な支持を集め、実に再生回数は600万回を突破。このアプリでかつての同級生を探すことの動機づけが成功し、登録ユーザー数を飛躍的に伸ばしました。
世界の市場で存在感を主張するために
南米では丸みを帯びたキャラクターを男らしい筋肉質なそれに変えるなどしてオリジナルスタンプをアレンジしたり、タイではスタンプの購入やアプリゲームの課金のためにプリペイド決済機能を搭載したりと、LINEはその他にもさまざまなローカライズを行っています。LINEユーザーが人口の70%以上という台湾では、期間限定でテーマパークもできました。
ほとんどの場合、商品やサービスの海外展開を図るうえでローカライズというプロセスは欠かせません。しかし、単に言語をその国に合わせるだけのローカライズはすでに過去のもの。LINEが証明したように、機能面、デザイン面、そして商品のキャンペーンに至るまで徹底したローカライズを実践すれば、世界の市場でより存在感を高めることができるでしょう。