アジアで水ビジネスを成功させるには何が必要か

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

20世紀は「石油を制した者が世界を制する」という時代でしたが、21世紀は「水を制する者が世界を制する」時代になると言われています。日本では少子高齢化の影響から人口減少の局面を迎えていますが、世界に目を向ければ、2050年までに90億人を突破すると予測されている状況。再生可能エネルギーの台頭によって石油への依存度は下がる傾向にありますが、水の需要は全世界的に増加傾向にあります。

日本企業の海外進出・アジア進出を支援する「TENKAI」がお届けするこのコラム、今回は「水」をめぐるビジネスの現況と、日本企業の取り組みなどについてご紹介します。2025年までに87兆円規模まで拡大すると予測されている水市場。成長分野への参入における可能性とは――。

利用可能な水は地球全体の0.01%

14億km3という膨大な水が存在する地球。しかし、その中で人類が利用できると言われる淡水の割合は、わずか0.01%に過ぎません。理論上はこの0.01%でも全人類の生命を維持するのに十分な量とされていますが、残念なことに水は地域によって偏在しており、生活用水や工業用水を他国から輸入するほど困っている国も存在しています。

その代表例がシンガポール。東南アジア諸国(ASEAN諸国)はほとんどが熱帯や亜熱帯に属しており、雨季ともなるとまとまった降水がありますが、東京23区とほぼ同じ面積の国土を埋め立てによって広げてきたシンガポールには、土地の保水力がなく、長く自国で必要な水量をまかなえなかったという過去があります。

シンガポール以外にも、UAEやクウェート、ヨルダンとなどの中東諸国アフリカ諸国の中には、きわめて水の自給率が低い国もあります。このまま人口が増え続ければ、さらに需給のバランスが崩れて深刻な水不足が全世界的に起こらないとも限りません。事実、国連開発計画(UNDP)は、「2050年には水不足に直面する人口が10億人に達する」と予想しています。

「水メジャー」と呼ばれる巨大企業群が水ビジネスを支配

しかし、世界にはこうした現状をビジネスチャンスと捉える企業が少なくありません。その代表格とも言えるのが、フランスのヴェオリアやスエズ、イギリスのテムズといった「水メジャー」と呼ばれる欧州の企業群です。

これらの水メジャーは歴史が古く、水資源の開発や上下水道の敷設といったインフラ整備はもちろん、下水から再生した水を工業に利用したり、浄化して自然に戻したり、水道料金徴収や施設のメンテナンスなどの水供給と利用にまつわるすべてのプロセスを一貫して構築できるのが特徴。この総合力で、今や水メジャーは全世界的を支配しそうな勢いです。ちなみに前述のヴェオリア(の日本法人)は、2013年に松山市の水道民営化を手がけています。

個々の技術は世界有数の日本企業が目指す道

では、日本の水事業はどうでしょうか。水質処理に問題を抱える中国、劣悪な水環境で知られるインド、洪水の影響を受けやすいASEAN諸国など、アジアには水に関連するソリューションを求めている国や地域が少なくありません。いわば、格好のマーケットが存在しているのです。

しかし、日本は欧州の水メジャーに大きく遅れを取っているのが現状です。主な理由は、やはり総合力の欠如。企業にしても地方自治体にしても、個々の技術水準は世界有数のものを持ちながらそれらをひとつにまとめる仕組みがなく、水の供給と利用をワンストップで実現するまでに至っていないのです。そんな中で日本が取るべき道はやはり、包括的な水ビジネスをどう展開するか。そこにかかっていると言えるでしょう。

近年では、日本ガイシと富士電機の共同出資により2008年に設立された合弁会社「メタウォーター」や日揮・三菱商事・荏原製作所の3社が出資して2011年春に立ち上げた合弁会社「水ing(スイング)」が水メジャーに対抗しようと奮起しています。

上水、下水、造水、工業用水、農業用水、再利用水といったように水の分野は多様であり、分野によってニーズも変わってきます。中小規模の企業がこうしたビッグプロジェクトを推進するのは難しいですが、だからといって自社の強みを局所的に発揮していくのは不可能なことではないのです。戦略のカギとなるのは、現地事情に明るいパートナー企業自社の弱みを補完してくれるパートナー企業を見つけること。情報のアンテナを張り巡らせて、来たるべきビジネスチャンスに備えましょう。