今、注目される「生産拠点なき海外進出」。その戦略とは?
一時期の海外進出ラッシュは落ち着きを見せていますが、日本企業の海外進出、とりわけ経済が順調に推移している東南アジア進出は変わらず増加傾向にあります。しかし、その一方で、海外から撤退する企業もまた増加しているという側面は見逃せません。2014年の資料(帝国データバンク調べ)では、実に約4割もの日系企業がすでに現地から撤退している、もしくは撤退を検討したことがあるとされています。
こうした状況から、これまでのような直接投資ではなく、海外の企業に技術供与をしたり生産委託したりすることで実質的な海外展開をローリスクで実現しようとする中小企業が現れています。日本企業の海外展開を支援するサイト「TENKAI」が海外進出に関するリアルな情報をお届けするこのコラム、今回は海外に生産拠点を持たずにグローバル展開を模索する中小企業の戦略についてご紹介します。
経営資源の移転をともなわない海外展開とは?
株式取得や工場建設などの直接投資による海外進出では、現地に生産拠点を設けるために人材や技術、モノ(設備)、ノウハウといったあらゆる経営資源をまとめて移転しなければならず、中小企業にとってはこれが非常に重い負担およびリスク要因になります。
そこでにわかに注目を集めているのが、より資金負担が軽くオペレーションリスクが小さい海外展開のあり方。具体的には、現地企業への技術供与や生産委託によって、生産拠点を設けなくても事実上の海外進出を実現する――という戦略です。
「技術供与」による海外進出と留意点
自社が保有する特許技術やノウハウを提供する代わりに、提供された海外企業からロイヤリティ(ライセンス料)という対価を得るのが技術供与、いわゆる「ライセンス契約」です。原価を持たなくていいので、日本企業にとってはコストもリスクも最小限に抑えることが可能。軌道に乗ればきわめて高い利益率が期待できます。
しかしその一方で、技術の流出が生じやすくなる、生産を現地にまかせきりになるので品質管理が甘くなる、カントリーリスク(進出先の国の政治・経済・社会の変化にともなう商行為へのリスク)への配慮が欠かせなくなる、といった問題点もあります。当然、ロイヤリティが確実に支払われない懸念もついてまわるでしょう。
「生産委託」による海外進出と留意点
製品の生産を海外の業者に委託する生産委託では、完成品の販売権は委託する企業にあり、現地企業の権利は製造のみというのが原則です。この場合、企業にとっては生産能力の拡大や生産コストの削減といったメリットが得られます。
しかし、海外で生産委託を行うには、契約前に現地企業の生産能力(設備の質)や原材料・部品を調達する体制、人材の質など、さまざま要件についてあらかじめ厳しく確認しておく必要があります。納期面・品質面の条件を満たせなければ、OEM生産やODM生産をする価値がないからです。また、現地の労働条件や物流コストなどもチェックしておかなければなりません。場合によっては、秘密保持契約などを交わす必要もあるでしょう。
技術の流出やカントリーリスクの排除が成功のカギ
ビジネスである以上、海外進出・アジア進出には必ずリスクがあります。ですが、技術の流出やカントリーリスクなどに最大限留意して手堅く利益を確保していけば、そうしたリスクを回避しながら大きなメリットを手にすることができるでしょう。
中小企業白書(2010年版)によれば、従業員数300人以下で直接投資による海外展開を実現している中小企業は10%と少なく、これが30人以下になると1%に届かないという現実があります。「拠点なき海外進出」の手段として、それぞれに一長一短ある技術供与と生産委託。それでも、経営資源に限りがある中小企業にとっては、直接投資に比べてコストやオペレーションリスクを格段に抑えられるという点で有力な選択肢であることは間違いありません。